令和2年7月より法務局による自筆証書遺言保管制度がスタートします。ご自身で作成された遺言書を法務局で預かってもらえる制度です。利用するとどんなメリットがあるのか?利用する際にはどんなことを知っておかなくてはいけないのかご説明します。
自筆証書遺言保管制度を利用する3つの大きなメリット
・長期間、遺言書やその情報が法務局に保管される。
国の機関である法務局が、作成した遺言を預かってくれることにより、今まで自筆証書遺言の一番の不安であった「亡くなった後に遺言が発見されない」「発見された遺言が隠されてしまう」という事態を避けることができます。また、転居や災害による紛失という心配もありません。保管期間は遺言書については50年,遺言書に係る情報については150年です。
・自筆証書遺言でも裁判所での検認なしで相続登記などができる
法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は裁判所での検認手続きが不要となります。
今まで自筆証書遺言が避けられてきた大きな理由として、残された相続人に負担をかける「検認」の存在がありました。検認とは、遺言者の相続開始後に、残された遺言書の存在を裁判所に確認してもらう制度です。この検認手続きをしないと、遺言書を用いて相続登記や預金の手続きを進めることができません。裁判所の検認手続きは、相続人全員がわかる戸籍謄本一式を集めた上で裁判所に申立をしてその数週間後に検認の期日が設けられるため、手続き完了まで2~3ヶ月かかることもあります。
法務局の保管制度を利用すれば、この面倒な検認手続き不要で、相続手続きに進むことができます。(※なお、遺言者の相続開始後に相続人等が法務局に保管されている遺言の内容を確認するためには、裁判所への検認申立と同様に相続人全員がわかる戸籍謄本一式が必要です)
・相続開始後に、関係者が遺言の存在を確認できる
遺言者の相続開始後に、「遺言保管事実証明書(遺言書を預けているかどうかの事実を確認する証明書)」を請求することで相続人などが「遺言書を預けているか」全国どこの法務局でも照会をすることが可能となります
また、相続人のうち一人や遺言執行者が、遺言書のモニター閲覧や「遺言情報証明書(作成された遺言書の内容を確認できる証明書)」を請求すると、請求した旨が相続人全員に通知されます。この通知により遺言書の存在を知った相続人も、法務局へ請求することにより遺言の内容を確認できるため「どんな遺言が残されているか」どの相続人でも確認することが可能となりました。
遺言保管制度を利用するにあたり必ず知っておきたい3つのルール
1.申請ができる法務局は管轄により決まっている
自筆証書遺言保管の申請は、下記いずれかを管轄する法務局のみで行っています。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者の不動産の所在地
管轄についてはこちらの一覧をご確認下さい。
例えば、自宅住所地は渋谷区、本籍地は埼玉県さいたま市、不動産は渋谷区と静岡県熱海市に所有しているという場合は、渋谷区の管轄である東京法務局、埼玉県さいたま市の管轄であるさいたま地方法務局、静岡県熱海市の管轄である静岡地方法務局沼津支局の3か所から、遺言の保管申請をする法務局を選ぶことができます。なお、遺言書の保管制度については、不動産登記や商業登記と管轄の法務局が異なる場合がありますのでご注意ください。
2.必ず本人が法務局の窓口へ出向く必要がある。
自筆証書遺言保管の申請は、必ずご本人が法務局の窓口へ出向いて申請する必要があります。郵送やインターネットを利用した申請、親族や司法書士による代理、法務局の職員による出張の制度などはありません。
3.申込は事前予約制(オンライン予約可)
自筆証書遺言保管の申請は、事前予約制です。予約は申請をする管轄の法務局へ電話予約(平日8:30~17:15まで)又は法務省Webサイトの予約専用ページからオンラインで予約(24時間365日受付)することが可能です。また、管轄の法務局の窓口で直接予約することもできます。
4.遺言書や申請書は完成したものを持参する
予約した申請日に持参するものは以下となります。遺言書や申請書は、予約をした申請日までに整える必要があります。法務局では形式的なチェックは行いますが、遺言内容についての相談や作成した遺言内容についての審査は行っていないのでご注意ください。
5.作成する遺言書は指定の書式で作成する必要がある
法律では、自筆で作成する遺言に紙やサイズの指定はありません。しかし法務局の保管制度を利用できる遺言書は、A4サイズで指定されたとおりの余白が設けられている必要があります。おそらく今まで市販されていたような遺言書作成キットや、市販の便せんはこの指定に当てはまらない可能性高いのでご注意ください。
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