遺留分とは何か
遺留分とは、残された相続人の生活の保障のために、法律で認められた相続分のことです。
例えば、生計を同じくしていた相続人である配偶者や子がいるにもかかわらず、「私の全財産はA慈善団体に寄付をする」という遺言が作成され実行されてしまうと、残された配偶者や子は生活に困ってしまう可能性があります。このようなことを防ぐために、相続人に対し一定の相続分を請求する権利を認めるものです。
もともと遺留分は、戸主を中心とする家制度を前提としたの旧民法化において制定されていたものです。遺言により自由な財産処分を認める一方で、財産を第三者へ流出することを防ぎ家の者を守るという目的がありました。
遺留分を請求できるのは直系血族(子や孫、親や祖父母)のみであり、兄弟姉妹やおじおば・甥姪は遺留分を請求することはできません。
遺言書と遺留分の事例(前妻の子の遺留分)
遺留分を理解するために、実例で説明していきます。
太郎さんと妻はなさんの間に子はいません。ところが太郎さんは再婚で、前妻との間に健一さんと直子さんという2人の子がいます。太郎さんの相続財産は自宅の土地建物と預金。建一さんと直子さんはそれぞれ家庭を築いており、マイホームも持っています。このため、太郎さんは30年連れ沿った妻はなさんが自分亡きあと生活に困らないように、自分の遺産はすべてはなさんに相続してもらいたいと遺言を作成することにしました。
私の全ての財産は妻長谷川はなへ相続させる
遺留分の割合は2分の1(直系尊属は3分の1)
遺留分は、原則は「法定相続分×2分の1」です。
建一さんと直子さんの例でいえば、健一さんと直子さんの法定相続分は4分の1ずつ、これに2分の1を乗じた8分の1ずつが遺留分となります。ただし、遺留分の2分の1ルールには2つの例外があります。
例外1 直系尊属(両親や祖父母)のみが相続人の場合。直系尊属の法定相続分の3分の1が遺留分となります。配偶者と直系尊属が相続人の場合は、原則通り法定相続分×2分の1です。
例外2 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合。兄弟姉妹に遺留分がないため、全財産の2分の1が配偶者の遺留分であり、配偶者1人が相続人である場合と同じ遺留分となります。
遺留分は請求することにより生じる権利
遺留分は「請求して初めて発生する」権利です。このため健一さんと直子さんが、遺留分を受け取りたい場合、妻のはなさんに対して「私はあなたに遺留分を請求する」と伝えなくてはいけません。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求の期限は知ったときから1年
遺留分侵害額請求権は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。」とされています。つまり、遺留分は、遺留分の侵害を知ったときから1年以内に請求しなくてはいけません。
このため「知ってから1年以内に請求した」という証拠を残すためにも、遺留分侵害額請求は「相手にいつどんな内容の書面を送ったか」が記録に残る内容証明便で送ります。
遺留分侵害額請求書の文例・サンプル
遺留分の侵害した遺言書の存在にはいつ気づく?
遺留分には「侵害を知った時から1年」のほかに、相続開始の時から10年を経過した場合も消滅すると定められていますが、遺留分を持つ相続人である遺留分権利者は、どのようにして遺留分の侵害を知ることできるのでしょうか?
遺言執行者が指定されている遺言の場合、遺言執行者は就任したらすみやかに相続人全員に「遺言の内容を通知する」義務があります。このため遺留分権利者は執行者による遺言内容の通知により遺留分を知ることができます。
公正証書遺言であれば遺言執行者は指定されていますので遺言の内容が通知されます。しかしながら、自筆証書遺言は遺言執行者が指定されていないことがあります。遺言執行者の就任がないため、他の相続人に通知することなく、遺言により相続する相続人により遺言執行の手続きがされてしまった場合は、遺留分の侵害について知ることができない場合もあります。
遺留分で争いになるのは支払う価額
遺留分は法律で定められた相続人の権利であるため、請求されたら支払う必要があります。遺留分で争うということは遺留分の存在ではなく、支払う金額を争うということです。
下記が遺留分を計算方法です。少々難しく感じられるかもしれませんが、大まかにいうと、相続財産から遺留分権利者の遺留分額をだして、遺留分権利者に相続分や生前贈与がある場合は、それを差し引きするということです。
①対象となる相続財産 亡くなった人が有していた財産+生前に贈与された財産※-亡くなった人が有していた債務(借金)
※生前贈与の対象
- 相続人に相続開始前の10年間に、特別受益(婚姻や養子縁組・生計の資本)としてなされた贈与
- 相続人以外に相続開始前の1年間になされた贈与
- 遺留分権利者に侵害を与えると知って行った贈与
②遺留分額 ①の相続財産×遺留分割合×法定相続分
③遺留分侵害額(請求する額)②遺留分額-遺留分権利者が相続で取得した財産額-遺留分権利者が相続により引き継ぐ債務額-遺留分権利者が受けた特別受益や遺贈の価額
先の遺言をうけ健一さん遺留分請求をする場合、太郎さんから特別受益をうけていないということであれば、③の計算は不要です。太郎さんの①の相続財産が8000万円だった場合、②健一さんの遺留分額は1000万円(8000万円×健一さんの遺留分割合8分の1=1000万円、健一さんが遺留分としてはなさんに請求できる額は1000万円となります。
遺留分計算の大きなポイントは①の相続財産がいくらなのか、生前贈与などがあったのか、という点でしょう。不動産がある場合は、「時価」「公示価格」「路線価」「固定資産評価額」と、どの価格を適用するか争いになることもあります。(※原則は時価での算定となります)また、葬儀代などを控除してほしいというような要望がでることもあるでしょう。
遺留分請求とその支払について、当事者同士の話し合いがこじれた場合は、裁判所へ遺留分侵害額の請求調停を申立して、裁判所を通じての話し合いに進むことになります。調停でもまとまらない場合は、訴訟を申立をして和解もしくは判決で決着をつけることになります。
遺留分を排除することはできるのか?
遺留分は法律で定められた権利であるため、消滅させることはできません。遺言者が生前にできる遺留分対策は以下となります。
①遺言の付言で遺留分を請求しないように伝える
遺言には付言といって、公正証書でも自筆証書でも、遺言の本文のあとに好きなメッセージを残しておくことができます。この付言で、このような遺言の内容にした理由や背景と、遺留分権利者に遺留分を請求しないでほしいという思いを伝えます。ただし付言には法的拘束力は一切ありませんので、遺留分権利者には、あくまで「お願い」するのみとなります。
②遺留分放棄をしてもらう
生前に相続放棄をすることはできませんが、裁判所に生前に遺留分の放棄を認めてもらう制度はあります。ただし裁判所が生前の遺留分放棄を許可するにあたっては、遺留分権利者となる相続人となる方が自分の意思で申立をしていること、遺留分を放棄するのに相当の理由があること、遺留分を放棄するにあたり相当の代償があることが求められますので、おそらく、多くのケースにおいては利用が難しいでしょう。
③遺留分相当の現金を用意する
遺留分を請求された相続人が困るのは、不動産があるのに預貯金や現金が少ないケースです。かといって、遺言者が遺留分のために預貯金や現金を残すと、それらも遺留分の対象となってしまします。このため、遺留分対策で金銭を用意するには、法的に相続財産に含まれないとされる生命保険の活用が有効とされています。
遺留分権利者がいる遺言書の作成は司法書士にご相談ください
特定の人に多くの財産を相続させる、遺贈するという内容の遺言書を作成するときは、この遺留分に十分に配慮しなくてはなりません。当事務所では、相続・遺言にくわしい女性司法書士による、きめ細やかな対応とリーズナブル料金設定の遺言書作成サービスをご用意しております。遺言や遺留分について気になることがある方は、どうぞお気軽にお問合せください。
※遺留分を請求したい・遺留分を請求されて困っているというようなご相談は、司法書士ではお役に立てることが少ないため、あらかじめ弁護士さんにご相談されることをおすすめします。
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