未登記建物はなぜ存在するのか?
相続を機に、自宅やご実家の建物が「未登記であった」ということを知ったという方。特に住宅ローンを借りてマイホームをご購入された経験のある方であれば「なぜ登記がされていないのか!?」ととてもびっくりされることでしょう。
しかしながら未登記建物は決して珍しいものではありませんのでご安心ください。昭和の時代に建築された家は、地元の工務店に依頼をして建築代金を現金で支払っていたということも多く、現金で支払った場合は銀行の担保に入ることもないので、「今まで登記をする必要が特になかったから」ということで未登記のままになっている建物が日本中にあるのです。
登記をしなくても特に困ることもなく、通告がきたり罰せられるということもないので、そのまま放置されてという現状なのです。
未登記建物と固定資産税
登記されていない建物にもかわらず、なぜ役所は建物を把握して固定資産税を課税をしているのでしょうか?
これは市区町村の役所が、固定資産税課税業務といって航空写真撮影や現地調査などあらゆる手段を使って、固定資産税の対象となる不動産の調査をしているからです。固定資産税は地方自治体の貴重な財源ですので、課税を逃さないように目を光らせています。未登記の建物はその調査された結果が、役所の固定資産台帳に記載されており課税されているのです。
しかしながら、市区村長が把握した建物について、法務局へ情報提供したりデータ連携をするという仕組みは存在しないため、法務局の登記情報に反映されるということはありません。
登記には表題登記と権利登記がある
ひとくちに登記といっても登記には表題登記と権利登記があり、それぞれ担当する専門家が異なります。
表題登記は、不動産に関する物理的情報(所在、地番、地目、地積、床面積など)が記載されています。下記の登記事項証明書サンプルの赤い部分です。表題登記は、登記を目的とする調査と測量の国家資格である土地家屋調査士が専門家となります。表題部については、法律で「所有権の取得の日から1ヶ月以内に申請しなくてはいけない」とされており、違反した場合は10万円以下の過料に処されるとされていますが、実際に過料に罰せられたという話は専門家でも聞いたことはないので、未登記の建物を相続されたという方もひとまずご安心ください。
権利登記は、不動産の権利に関する情報が記載されています。下記の登記事項証明書サンプルの青い部分です。権利部の甲区には所有権に関する情報が、乙区には所有権以外の担保権や地上権などの権利についての情報が記載されており、権利部の登記は、司法書士が専門家です。権利部を確認すると、だれのどのような権利があるかがわかります。不動産の権利状態を誰でも確認できるようにして、取引を安全かつスムーズに行うようにすることが登記制度の目的であります。この権利部については今まで義務ではありませんでしたが、相続登記や住所氏名変更登記については2021年義務化の法案が成立し、数年内に制度化がされる予定です。
未登記建物には2種類の状態がある
登記されていない建物というのは、表題登記がされておらず、登記事項証明書(登記情報)が存在しないというものと、表題登記のみ登記されているので登記事項証明書(登記情報)は存在しているというものと、2種類があります。
表題登記のみされているというのは、「とりあえず義務なので」表題登記だけはやっておいたというケースや、表題登記までは工務店やハウスメーカーが案内してくれていたというような事情が多いようです。
未登記建物のままでも相続できる?
建物は未登記のままでも相続することはできます。特定の相続人が相続する場合は、遺産分割協議書に未登記建物を相続する旨の記載をします。遺産分割協議書には、未登記建物は評価証明書の情報通りに記載をします。
遺産分割協議書の記載例
未登記家屋
所 在 渋谷区新宿一丁目100番地10
種 類 居宅
地 上 2階
構 造 木造
屋 根 瓦葺
床 面 積 100.00平方メートル
※東京都渋谷都税事務所長発行にかかる令和3年度固定資産評価証明書の記載による
未登記建物を相続したら所有者変更届を出すことをお忘れなく!
未登記建物は法務局への申請はしませんが、市区町村の役所の固定資産税課に所有者変更届を提出します。役所は毎年1月1日現在の登記上の所有者を確認して、固定資産税の課税をします。しかしながら未登記建物は、役所が登記上で所有者変更の確認ができないため相続をしたら届出をする必要があるのです。前年の12月末までに提出をすれば、翌年から新しい所有者あてに固定資産税の納付書が送付されます。
相続した未登記建物は登記したほうがよいのか?
建物が未登記のままであると、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
端的に言うと「この建物は私のものである」とほかの人に主張できないことです。例えば、所有者に成りすました人が勝手に家を売ってしまった場合は、成りすました人物から購入した買主(善意の第三者といいます)へ「私が所有者であった」ということを主張することができません。ほかの人が権利を主張した場合、登記をしていないと主張に勝つことができないのです。
また、登記していない建物はを担保にして銀行等からお金を借りることができません。登記されていない建物は抵当権の設定ができないからです。さらに「土地と建物売りたい」というときには、建物が登記されていないことにより敬遠される可能性もあります。
しかしながら、建築年数が経過しており現在も住んでいる一般的な住宅であれば、なりすましなどの所有権をめぐるトラブルに巻き込まれる可能性は低いと思われますので、未登記のままにするという選択もひとつです。担保に入れてお金を借りたい、土地とあわせ売却したいという場合は、そのときに登記をするということでも遅くはありません。
一方で、未登記を放置すると次の世代に迷惑をかける可能性もあります。このため、トラブルは予見されなくとも、「相続を機にきちんと登記をしておく」という選択をされる方もいらっしゃいます。もともと表題登記は義務です。罰則や催促がなくとも、登記されていない建物は違法な状態ではあるわけです。資料が保管されており建設当時のことを知る方がご健在のうちに登記をすませておきましょう。
相続した未登記建物を登記する場合
表題登記がないため登記事項証明書が存在しない未登記建物を登記するには、土地家屋調査士による表題登記と司法書士による権利登記である所有権保存登記が必要です。まずは表題登記を先に行い、続いて所有権保存登記を申請することになります。
相続した未登記建物の場合、相続関係を証する書類を添付することで、被相続人名義ではなく相続人名義で表題登記と所有権保存登記を入れることが可能です。
表題登記の費用と必要書類
一般的な住宅の建物の表題登記の土地家屋調査士報酬の相場は10万円前後です。登録免許税はかかりません。古い建物の表題登記は、測量や図面作成を要することが多く専門性が高い業務ですので土地家屋調査士にご相談・依頼することをおすすめします。
図面
表題登記の申請には建物図面・各階平面図と図面の作成が必要です。古い建物の場合は増築されていることも多く、新築当時作成された建物の図面が残っていたとしても、現在の建物と一致しているとは限らないため注意しましょう。
所有権を証明する書類
固定資産税の評価証明書に加えて、建築確認書・確認済証・検査済証書・工事完了引渡証明書などが求められますが、現存していない場合は・火災保険の証明書・公共料金の領収書・上申書などほかの書類を書類を用意することになります。
相続を証明する書類
相続関係を証明する戸籍謄本・遺産分割協議書・印鑑証明書・被相続人の住民票
表題部所有者となる人の住所を証明する書類
相続した人の住民票
その他
現地の案内地図
所有権保存登記の費用と必要書類
一般的な住宅の建物の所有権保存登記の司法書士報酬の相場は3万円前後です。登録免許税は建物の固定資産評価額に対して1000分の4の割合で(1000万円であれば4万円、100万円であれば4千円)かかります。所有権保存の必要書類は、所有者(建物を取得した相続人)の住民票です。
未登記建物の相続は当事務所にご相談ください!
相続の業務に携わっていると、未登記建物は非常によく出会う事案です。建物の表題登記は所有していることを証明するための資料の提出が求められるため、代替わりをしたり年数が経過してしまうとその証明をすることが難しくなってしまい、費用がかさんでしまう可能性もあります。
当事務所では、相続登記や相続手続きをご依頼のお客様で未登記建物の登記を希望される方は、良心的な料金で経験豊富な土地家屋調査士の先生をご紹介しております。未登記建物の相続が気になっている方はどうぞ当事務所にご相談ください。
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