父の相続人は自分たちだけかと思っていたが、戸籍を調べてみたら、実は存在を知らなかった異母兄弟がいた。独身で子のいないおばの相続が発生したが、その相続人である亡くなったおじの息子は、いとこ同士だが会ったこともないしどこに住んでいるかわからない。このような場合、どうやって相続手続きを進めていけばよいのでしょうか。住所の調べ方、初回の連絡の注意点、連絡が来なかった場合の対処法をご紹介します。
相続人の住所がわからない場合は戸籍の附票を取得する
行方がわからない相続人や知らない相続人とはいったいどうやって連絡をとればよいのでしょうか?
実は、戸籍の附票という書類を取得すると、その人の住民票上の住所地を知ることができます。戸籍の附票は、戸籍の本籍地のある自治体で管理されている、住所の変更履歴が記載されている書類です。住民票は住所がわからないと取得することができませんが、戸籍の附票は、戸籍謄本と同様に本籍地がわかれば、本籍地のある市区町村の戸籍課等で取得することができます。
知らない相続人であっても戸籍謄本であれば、相続関係をたどることで取得ができます。現在の戸籍謄本を取得することができれば、戸籍の附票が取得でき、住所地がわかるというわけです。
戸籍の附票サンプル
面識のない相続人へ手紙の書き方で注意する事
相続人の住所がわかったら、相続が発生した旨のお手紙を送ります。
知らない相続人や疎遠な相続人との相続手続きは、初回の印象がその後の流れを左右するといっても過言でもありません。どのように何を書くか、本当にこれはケースバイケースですが、誤解や余計な印象を招かないように、初回のお手紙では以下の3点はおさえ、あまり多くを書きすぎないことがポイントかと思います。まずはご自身の思いや望みはぐっと腹のうちにおさめましょう。
- 自分と相手と亡くなった人との関係
- 戸籍をさかのぼり相続人であることを知り、戸籍の附票から住所を知ったこと
- 相続手続きに協力してほしいので連絡を頂きたいこと
細かい点ですが、戸籍をさかのぼり戸籍の附票という書類から住所を知ったという点は重要です。説明がないと、相手方が「知らない人がどうやって私の住所を知ったのであろうか」ととても不安になるからです。
初回以降の連絡を電話やメールでおこなっていきたいと考える場合は、お手紙にご自身の連絡先を記しましょう。なおメールでの連絡を希望する場合でも、メールは日常的に使ってない方もいらっしゃいますので、電話番号とメールアドレス双方を記載したほうが相手への心遣いになるかと思います。相手が20代〜30代であれば、LINEのIDも明記しておいたほうがスムーズかもしれません。
相続人連絡がとれない場合の対処法は
何度かお手紙を送っているのに連絡がこないというとき、可能であれば一度住所地に訪問し住居があるか確認します。戸籍の附票からわかるのは、現在の住民票上の住所地ですが、この住所地に住んでいない場合もあるからです。
確かにその地に住んでいるというようであれば、調停制度の利用を検討します。家庭裁判所を介して話し合いをする呼び出しをしてもらうのです。調停への欠席を続けた場合は、審判へ移行します。審判に移行すると、裁判所がどのように遺産分割するか、審判を出します。(審判においては、特別受益や寄与分などの特別な主張がない限り、法定相続分での分割となるようです。)審判がでれば、その遺産分割内容にもとづき相続手続きを進めることができます。
住民票上の住所に住んでおらず、いわゆる「行方不明」「消息不明」という場合は、不在者財産管理人制度の利用を検討します。これは、不明の相続人にかわりに遺産分割協議に参加する人を裁判所に選んでもらう制度です。不在者財産管理人は地元の弁護士が選任されることが多いようです。
もう何十年も前に失踪していて、おそらく亡くなっているであろうというケースは失踪宣告の申立の利用も検討します。失踪宣告とは、7年以上生死不明の方に対して法律上、死亡とみなす効果をもたらすものです。相続人を死亡したとみなすことで、相続手続きをすすめることができます。
不在者財産管理人制度や失踪宣告の申立の手続きは、専門性が高く慎重に検討する必要があるため、専門家へ相談することをおすすめします。
面識のない相続人がいる相続手続きを依頼するなら弁護士・司法書士どちらがよい?
行方のわからない相続人や知らない相続人がいるので、専門家にサポートしてほしいという場合、弁護士と司法書士どちらに依頼すればよいのかわからないとご相談を頂くことがあります。
相手方とまったく話をしたくない。お金をかけてもよいので全てをおまかせしたいという場合は弁護士へ依頼します。弁護士に依頼した場合は、着手金ほかに相続した相続財産に対しての成功報酬も発生するため、報酬が高額となります。しかしながら、司法書士や行政書士には遺産分割に際し「代理人となって交渉する」ことは弁護士法違反となり法律で禁じられているので、話し合いや交渉を全ておまかせしたいということであれば弁護士に依頼しましょう。
初回の連絡だけお願いしたい、相続財産が少ないので費用をおさえたい、という場合は司法書士にご依頼ください。ただし司法書士に依頼する場合は、上記のとおり代理人となることができませんので、初回の連絡以降は当事者同士でお話合い頂くことになります。もし当事者同士でうまく話し合いがまとまらない場合は、途中で弁護士に代理人を依頼するということもできます。
以上、行方がわからない相続人や知らない相続人がいる場合の相続の手順についてご説明させて頂きました。
知らない相続人がいる相続手続きでは、細やかな気配りや慎重さが求められます。些細なことでボタンの掛け違いが生じてしまうと、当初はお互い争うつもりではなかったというような場合でも、長期化してしまうことがあります。知らない相続人がいる相続手続きをご自身で進められることご不安な場合は、相続手続きの経験豊富な当事務所にご相談ください。
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