借地権とは何か
建物を所有するために、土地の所有者と賃貸借契約を結んで地代をはらうことにより、土地を利用できる権利のことを「借地権」といいます。
その昔、江戸時代までは土地は「領主」つまりお殿様のものでした。明治時代になり近代化の流れで、一般人にも土地所有が認められるようになりましたが、土地は大変高価なものであり、課せられる税金も大変高額であったため、一般の人々は大地主などから土地を借りて家を建てました。
当初借地権は、所有者である地主の権利が強いものでしたが、明治〜大正~昭和といつくかの改正を経て、現在のように「よほどのことがない限り追い出されない」という、借りている人に有利な借地権ができあがりました。
土地を所有はしていないが、住む権利は安定しており土地にかかる税金を払う必要もない、ということで土地を所有することが一般的になった今でも日本中に借地権付きの建物は多く存在します。
もう住まない借地権の相続はどうすればよいのか(借地権の処分)
故人の遺産に借地権付きの建物があるが、誰も建物を利用しないのでどうにかしたいという場合は、どうればよいのでしょうか?おおまかに4つの選択肢があります。
1.借地権付きの建物を第三者に売る、又は貸す
借地権の売却や賃貸は、地主の承諾を得ないと進めることができないため、地主が今後も継続的に地代を受取っていきたいと考えている場合に検討できる方法です。地主の意向と市場価値が鍵を握ります。
承諾が取れない場合は、裁判所に申立をして裁判所に承諾をだしてもらう「借地非訟」という方法もあります。市場価値の大変高い不動産であるが、地主の説得が難しいという場合に、裁判所の手続き覚悟で進めていくというケースもあります。
2.地主に借地権を買い取ってもらう
これはもう住まない相続人にとっては望ましい取引であり、この形を希望する方は多いです。しかしながら、地主に資金があり土地を取り戻したいという事情がないと成立せず、地主が応じる義務はないので、実現性は高いとはいえません。
3.底地を買い取る
これは現在も住んでいる人にとっては有り難い話かもしれませんが、「もう住まない」相続人にとっては積極的になれる話ではないでしょう。もし地主が底地を売りたいという意向があるのであれば、第三者に売却することも検討しましょう。
4.賃貸借契約を解約して、土地を地主に返す
借地権の市場価値(ニーズ)が低いため1が難しい、2・3も地主が望まない、とにかく早く借地権を手放したい片づけたなどという場合に検討します。
お互いの合意による借地の賃貸借契約の終了は、建物を壊して更地に戻すことが原則であるため、借地権者にとっては負担が大きいものとなります。
合意解約である場合、法律上、地主に建物買取や立退料支払の義務はないため、どのような条件で土地を返却するかは交渉事となります。なお、借地権の存続期間満了での契約終了・土地返還の場合であれば、地主に建物買取ことを請求することができますが、相続のタイミングでちょうどよく存続期間が満了することはまれでしょう。
当事務所で以前ご相談いただいた借地権付き建物がある相続案件では、借地権付き建物が不要である相続人たちと、底地に娘夫婦の家を建てたいという地主の思いが一致して、家具などの残置物の片づけは相続人側で負担、家屋の解体は地主が負担、という形で金銭の授受なく賃貸借契約を合意解除しました。
借地権という権利は、利用するにあたっては借地権者の立場が強いのですが、いざ処分するにあたっては借地権者の立場が弱く、何をするにも地主への相談や承諾が必要となるという点が、不自由で面倒な部分です
※ 借地権の処分や地主への返還についての個別具体的な交渉アドバイスやトラブルのご相談は、司法書士事務所である当事務所の業務取扱外となりますのでご相談を承ることができません。
借地権を相続したくない!借地権は相続放棄できるのか?
借地を相続したくないという場合は、相続放棄を検討します。ただし、相続放棄をする場合は、預貯金などプラスの財産は一切相続することはできず、相続発生を知ったときから3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。また、例え相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が選任されるまでは、民法〇条による管理義務が残ります。
これは、相続放棄をしても、空き家となった借地権付き建物が老朽化するなどして近隣の住民など危害を与える状態となればその空き家を管理を行政などから求められる可能性があるということです。現在、国で法整備を進めている「所有権放棄」の制度は、土地のみが対象であり、借地権や建物は対象とはなりません。
このため、「借地権を相続したくない」という理由のみでの相続放棄は、積極的におすすめできません。
借地権と登記
借地権そのものは登記されるものではありません。商用的な利用である借地権であれば、地上権や賃借権と登記されているものもありますが、一般の住宅で登記をされている例は少ないです。
一方、建物は登記できます。法律では「建物を所有していること」をもって借地権が成立しているものとします。建物を登記をしていれば、所有していることが明らかであるので、借地権は成立していると地主以外の者にも主張することができます。
借地権付きの建物が未登記である場合は
建物が登記されていなくとも、建物の所有するために、地主と賃貸借契約をかわして、地代を払っているという事実があれば、地主に対して借地権があるということを主張することができます。しかしながら建物の登記がない場合は、第三者、地主が土地を売った場合の新所有者や、土地に担保設定をした地主の債権者などには借地権を主張することはできません。
借地権の相続登記(名義変更)はどうするか?
相続した土地を売りたいという場合、まずは相続登記をして土地を相続する人を確定してから、売買についての交渉や話し合いを進めていきます。相続登記をすませる前に、相続人の一人が勝手に話を進めていったとしても、売買契約は相続人の1人から締結することはできません。
借地権の処分も同様に、まずは建物の相続登記をして借地権を相続する人を確定してから、地主との話し合いを進めていくほうがよいでしょう。もし借地権を売却などができる見込みがあるのならば、手続きの便宜上相続人代表者に名義を移して、売却後に費用をひいた金額を各相続人で取得するという遺産分割協議書の内容にすることもできます。
借地権は登記されていないため、相続登記ができません。借地権付きの建物を相続した場合は、建物のみ相続登記(名義変更)をすることになります。相続登記は建物のみしか行いませんが、遺産分割協議書には下記のように借地権についても記載します。
借地権の遺産分割協議書の書き方例
(1)借 地 権 (賃貸人 山田太郎)
所 在 渋谷区新宿1丁目
地 番 100番10
地 目 宅地
地 積 100.00平方メートル
(2)建 物
所 在 渋谷区新宿1丁目100番地
家屋番号 100番10
種 類 居宅
構 造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 50.00平方メートル
2階 50.00平方メートル
借地権付き建物の相続登記は、司法書士におまかせください!
もう利用しない借地権付きの建物の相続でお困りの方、お悩みの方。当事務所に、建物の相続登記をご依頼頂ければ、借地権についてご状況やご要望に応じたアドバイスが可能です。司法書士は、地主との交渉等を代理することはできませんが、必要に応じて不動産業者や弁護士をご紹介することもできます。
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