亡父が10年前に完済している住宅ローンの抵当権が残っている
亡くなった父名義となっている自宅の相続登記をしようと登記簿を確認したところ、銀行の担保がまだ残っているようです。40年前にマイホームを購入した際の住宅ローンと思われますが、住宅ローンは10年前にすべて払いおわっていると母はいっています。亡父がすでに完済している住宅ローンの担保については何か手続きをする必要はあるのでしょうか?
抵当権が残っているのは抵当権抹消登記をしていないため
住宅ローンなど、不動産を担保としてお金を借りる場合、その不動産には抵当権の登記が設定されます。そしてローンを全て返済すると、借入先の金融機関等から、設定された抵当権登記を消すために必要な書類一式を渡されます。登記上に設定された抵当権は完済されたからといって、自動的に消されるというものではないからです。
抵当権を設定するときは、不動産会社や銀行などから紹介された司法書士が登記するので、銀行や司法書士に言われたとおりの書類に署名捺印をすればことが進みます。しかしながら、抵当権を抹消するときは、銀行等が進んで司法書士を手配してくれるということはあまりありません。抵当権が抹消されなくとも、銀行には不利益がないからです。
抵当権の設定や抹消は、抵当権を設定する不動産の所有者と、担保権を持つ債権者の双方から申請するものです。ところが、お金を返してもらった債権者は積極的に手続きを進める必要もないので「書類と委任状を渡すからあとは所有者のほうでお願いね」というわけです。
このため、抵当権を消す抵当権抹消登記はご自身で書類を整え法務局で手続きをするか、ご自身で司法書士に依頼するということになるのですが、昔はインターネット等もなかったので調べ方や進め方もよくわからず、「いつかやらなくては」と思いつつ数年たち、気づけば抵当権抹消のことはすっかり忘れてしまっていた、というケースは大変多いのです。
相続登記と抵当権抹消、どちらを先に申請する?
抵当権抹消は、相続登記をする前でも、相続人の1人から申請することが出来ます。
しかし、抵当権抹消はそこまで急ぐ事情というのもまずないので、通常は相続登記をして相続人の名義にかえたあとに、新しい所有者である相続人が申請人となって抵当権抹消登記を申請します。相続登記を申請するときに続けて(連件で)抵当権抹消登記を行うこともできます。
なお、団信(団体生命保険)等により、所有者の死亡日以降に完済された場合は、必ず相続登記をした後に抵当権抹消登記をする必要があります。
まずは完済時の書類が残っているか確認
抵当権抹消には、銀行等から渡された書類一式が必要です。完済時には、当時の金銭消費貸借契約書など数枚の書類をまとめて渡されますが、この中から以下の書類を探します。
1.登記済証または登記識別情報通知
2.解除(放棄)証書等
3.金融機関からの委任状
1の登記済証は、通常は抵当権設定契約書に「登記済」という法務局の赤い朱印が押印されているものです。登記識別情報通知というのは平成17年の法改正により廃止された登記済証の代わりにできた、ブルー色の「登記識別情報通知」と記載された12桁のパスワードが目隠しされた書類です。
2の解除(放棄)証書は、「債権者は、抵当権を解除(放棄)します」といった内容の書類です。金融機関により名称や書式が異なります。また1の登記済証である抵当権設定契約書に、ゴム印で抵当権を解除(放棄)する旨の印字がされているものを解除証書とするケースもあります。
3は、金融機関からの抵当権抹消登記に関する委任状で、委任欄が空白となっています。
書類がない場合は金融機関に再発行をお願いする
書類がみつからない場合は、2と3については金融機関に連絡すれば再発行をしてもらえます。しかしながら1の書類については銀行から再発行はされません。なぜならば1の登記済証や登記識別情報というのは「担保権を持っていた証書」であり、所有権でいえば「権利証」にあたるものであり、法務局が発行する(朱印を押印する)ものであるからです。
1の書類がない場合は、「事前通知制度」という別の制度を利用します。事前通知制度とは、登記申請した後、法務局から抵当権の権利を失う金融機関に書面を送り、その書面に実印を押印してもらい法務局に返送してもらうことで確認をとるものです。この制度を利用するにあたっては、事前に金融機関への手続きへの協力のお願いやお知らせが必要となります。
抵当権の抹消は相続登記とあわせて司法書士におまかせを
完済したのはだいぶ前という場合、委任状はおそらく現在の代表者ではない、かつての代表者の氏名が入っているものとなります。委任状がかつての代表者名で記載されいても、委任状そのものが無効や期限切れになるということはありません。しかしながら、登記申請書にはあくまでも現在の代表取締役等の情報を記載する必要があるため、最新の委任状をもらいなおしたほうが手続きはスムーズです。
このように長い間忘れていた抵当権の抹消登記は、金融機関とのやりとり等も発生するため、相続登記とまとめて司法書士に依頼されることをおすすめします。
抵当権が残っていても経済的に不利益を被るということはありません。しかし、後に売却などの処分をする際には、もれなく抵当権を抹消することを求められます。特に困らないからといつまでも放っておくと金融機関に合併吸収などがおきたり、相続人にさらに相続がおきるなどしてどんどん手続きが面倒となります。このため、残っている抵当権を見つけたら、放置せずに抹消することを試みましょう。
当事務所では、相続登記おまかせプランとあわせて抵当権の抹消登記のご依頼をうけることも、抵当権抹消のみのご依頼を受けることも可能です。相続登記や抵当権抹消登記は、不動産の所在やご依頼する方のお住まいにかかわらず全国対応しておりますのでどうぞお気軽にお問合せ下さい。
最新記事 by 司法書士 長谷川絹子 (全て見る)
- 令和5年度夏季休業日のお知らせ - 2023年7月20日
- Vol.9 司法書士の私が40代でも遺言書を残している理由 - 2022年2月24日
- Vol.8 司法書士と抵当権抹消 - 2022年2月1日