手書きの自筆証書遺言をみつけたら
手書きで「遺言書」とかれた封筒がでてきたら、中を開けてはいけません。
手書きで書かれた遺言書は自筆証書遺言といいます。自筆証書遺言を発見した人はすみやかに家庭裁判所に検認申立をしてください。検認とは相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防ぐために、遺言書の状態等を裁判所で確認する手続きです。検認手続きを行わないと、自筆証書遺言を使って銀行や法務局相続手続きをことができません。
法律では自筆証書遺言を裁判所に提出しなかったり、検認をしないで遺言を執行したり、裁判所以外で開封したものは「5万円以下の過料に処する」と定められております。知らずにうっかり開封してしまった場合でも検認の申立は必ずしましょう。開封してしまった遺言書を検認時に提出して、過料を請求されたという話は聞いたことはないのでご安心ください。
検認申立をすることで、相続人全員へ裁判所から遺言書の検認をする旨の通知書面が届くので、見つけた人が各々の相続人に連絡をしなくても大丈夫です。
検認の手続きは、裁判所の繁忙状況によりますが、申立してから検認日をおえるまでおよそ1~2ヶ月前後かかります。提出する戸籍集めるところから始めると、2~3ヶ月前後かかることもあり、この間は遺言の内容を知ることができず相続手続きが保留状態となってしまうため、自筆証書遺言を発見したら速やかに申立を行います。
遺言の検認手続きの必要書類と流れ
遺言検認手続の必要書類
申立書 (800円の印紙を貼付する)
検認申立書の記入例(裁判所webサイトより)
相続関係を証明する戸籍
※原本還付を希望する場合は、原本とあわせてコピーも一緒に提出します。
- 被相続人(亡くなった方の)出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人の子や孫が先に亡くなっている人がいる場合は、その子や孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
相続人が直系尊属(父母・祖父母等)の場合
- 相続人と同じ代の直系尊属が亡くなっている人が場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
相続人が兄弟姉妹や甥姪の場合
- 被相続人父母の出生時から出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 兄弟姉妹で先に亡くなっている人がいる場合は、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 甥姪で先に亡くなっている人がいる場合は、その甥姪の死亡の記載のある戸籍謄本
相続人の住民票は必要書類となっていませんが、裁判所が相続人全員に対して検認のお知らせを送るために、申立書に相続人全員の住所を記載する欄があるため、必要に応じて取得します。
郵券(裁判所へ納める連絡用の切手)
裁判所によって納める枚数や金額が異なるので、提出する裁判所にご確認下さい
遺言の検認手続きの流れ
1.裁判所に申立書を提出する
申立先は被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所となります。裁判所へ持参をするか、郵送で申立書と必要書類を提出します。
2.申立人に日程調整の電話連絡がくる
申立書に記載した連絡先電話番号に、検認期日の日程調整の連絡がきます。裁判所とはメール等でやりとりすることはできませんのでご留意ください。
3.相続人全員に検認手続きの期日の案内が郵送で送られてくる
相続人全員に案内が送られてきますが、申立人以外の相続人には出席義務はありませんので相続人全員が参加しなくとも問題はありません。
4.期日にて裁判所で検認
裁判所より指定された日時・部屋にて、検認が行われます。出席した相続人の立会のもと、裁判官が遺言を開封して遺言の状態を確認します。
5.検認済証明書付きの遺言書が渡される
検認済の印がされた遺言書の原本と、原本還付を希望した場合は戸籍謄本が返却されます。
この手書きの遺言は有効か?
このような検認手続きを経て、相続人は初めて遺言の中身が確認できます。なお、裁判所の検認手続きは、有効・無効を確認するものではありません。このため、検認がおわったら「遺言書が使えるのか」あらためて確認する必要があります。
これを守らないと遺言は無効という自筆証書遺言の要件は3つです。
1 全文を自筆で記載すること
自筆証書遺言は、全文を手書きで記入しなくてはなりません。このためパソコンなどで印字された遺言書はご本人が作成されたものであっても無効となります。
ただし、平成30年の民法改正により、平成31年1月13日以降に作成された遺言書は、財産目録は手書きではなく印字や通帳などのコピーを用いてよいことになりました。手書きではない財産目録を遺言書に用いる場合は、全頁に本人の署名押印が必要です。
2 作成日の日付があること
遺言書には作成日付が必要です。「年〇月吉日」など日付が特定できない記載は無効です。
3 署名押印があること
署名は氏名があればよく、住所の記載までは求められておりません。印鑑の指定はないため、認印でも有効です。
遺言書の存在は有効だが、相続手続きで問題となるケース
上記3つをクリアしていれば遺言書の存在としては有効です。しかしながら、内容や書き方によっては「遺言は有効だが遺言を使って相続手続きができない」「遺言は有効だが相続人全員の協力が必要になる」というケースがあります。
不動産が地番や家屋番号で特定されていない
「Aに下記の不動産を相続させる」というような、特定の財産を特定の人物に相続させる遺言においては、不動産を特定するためには土地は地番、建物は家屋番号での記載が求められます。ところが自筆証書遺言では不動産が住所で記載されていたり、「自宅を相続させる」という記載になっていることがあります。
このように不動産が地番や家屋番号で特定されていない遺言を用いて相続に登記できるかは、最終的には法務局の登記官の判断となりますので、まずは管轄の法務局に相談を要します。
訂正方法が誤っている
遺言書の訂正方法は民法により定められており、下記のように変更した箇所を示すこと、変更したことを記して署名すること、変更した場所に印を押すこと、という細かいルール求められます。法の定めとはことなる訂正がされている場合、訂正部分に関して無効となります
遺言書の訂正例
法務省webサイト遺言書の訂正の方法に関する参考資料より転載
人物を特定する情報が不足している
遺言により相続をする人物の特定は、続柄と氏名を戸籍謄本で確認することで行うことができます。しかしながら相続人以外への遺贈の場合、住所や生年月日などの他の情報がなく、氏名のみの記載であると人物が特定できないとして法務局や銀行などから手続きができないとされる場合があります。
遺言執行者が指定されていない
自筆証書遺言においては、遺言執行者が指定されていないことがよくあります。遺言執行者が指定されていなくても遺言自体は有効ですが、手続きがスムーズにいかない場合があります。
相続人に相続させるという遺言の場合は、遺言執行者が指定されていなくとも、遺言により相続するとされた相続人のみで手続きできることが多いです。
悩ましいのは、相続人以外の第三者に遺贈するという内容にもかかわらず遺言執行者が指定されていないケースです。遺言執行者が指定されていない場合は、原則は相続人全員の協力が必要となってしまいます。
なお、遺言執行者が指定されていない場合は、遺言書で指定されていないことを理由として裁判所に申立をすることで遺言執行者を選任してもらうことができます。遺言執行者になれないのは「未成年」と「破産人」だけであり、遺言を発見した相続人を遺言執行者の候補者として申立をすることも可能です。
なお、遺言執行者を選任しない場合は、遺言を通知する人いないため、遺留分を侵害する相続内容であった場合、遺留分を持つ相続人が遺留分の侵害を知ることができないという問題があります。遺言により財産を相続する人は遺言の内容を知らせたくないという心情かもしれませんが、後で他の相続人が遺言のことや遺留分のことを知ったときに、知らせなかったという事実により相手に大きなわだかまりがうまれ、遺留分請求が感情的な紛争となってしまう可能性もありますので対応については慎重に検討しましょう。
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