問「家を買ったことがある人は知っていて、買ったことがない人は知らないものなーんだ?」
答「司法書士」
知名度の低さに、自虐的ななぞなぞの一つも思い浮かんでしまう司法書士。
司法書士のメイン業務は、不動産(売買)決済です。
今は司法書士の業務も多様化しましたが、年配の司法書士で成功したという方は、ほとんどがこの不動産決済の業務で稼いだ方かと思います。(特にバブルのころ)
不動産を売り買いするときに結ぶ売買契約にはたいてい「所有権は(契約時ではなく)残金支払い時に移転するものとする」という特約があります。契約時に支払うのは手付金のみで、後日に売買代金から手付金をひいた残金を支払うのです。
特約のとおり、買主が残金を払って、売主が不動産を引渡しをする日が決済日です。
司法書士は、この決済日に買主がお金を振り込む前に、ヒト「本物の売主・買主か」、モノ「取引対象の不動産」、イシ「売買する意思は確かか」、そして書類「登記に必要な権利証や印鑑証明書などはそろっているか」を確認します。
売買は原則「同時履行」といって、代金支払いと引渡しを同時に行わなくてはしなくてはいけませんが、中立な立場の司法書士が売主の必要書類を確認の上預かり、代金の受取を確認した上で登記申請することで、「買主の支払いが先か」「売主が権利証を渡すのが先か」という信用がないもの同士では解決しがたい点をクリアすることができます。
ヒトモノイシ書類すべて問題なければ、買主にお金を払っていいよ、というOKサインをだします。住宅ローンなどの借入がある場合は、銀行に融資を実行してOKですと。
銀行にあれやこれやと伝票を提出して、一時間前後すると、売主が残金の入金を確認して、買主へ領収書と不動産の鍵などを渡して、取引終了です。
こうして確かに取引が成立したことを見届けて、司法書士はその日の17時15分までに法務局に所有権移転などの登記申請を行います。支払いと引き渡しは同時履行が原則ですし、万が一差押えなどが入ってしまうとお金を払った買主やお金を貸した金融機関が権利を確保できなくなりますので、司法書士は這ってでも必ずその日のうちに登記を入れなくていけません。
この不動産決済の場において、司法書士は登記申請書の代書屋というより、取引が成立するかの審判のような役割をします。そしてOKの審判を出したにもかかわらず、ヒトモノ意思書類に見落としがあった場合は、司法書士がその責任を負うことに。
「お金を払ったのに所有権移転ができない」「融資したのに担保の登記が入らない」という最悪の事態の場合には、損害賠償請求対象にもなります。
もらった報酬の、時には1000倍以上の賠償責任のリスクがある、それが司法書士の不動産決済の仕事。このため司法書士は、会に登録するときに1000万円の賠償責任保険に強制加入します。そして、ほとんどの司法書士は任意保険を積み増します。
積水ハウスの事件くらいインパクトのある事件でない限り、不動産詐欺事件はあまり世のニュースにならないのですが、日々裏社会では詐欺師や地面師事件がたくらみをしています。悪い人たちの技術革新が日進月歩のこの世において、武器は身分証確認だけ。司法書士てば竹やりで戦っている感あるなぁというのが率直なところ。
世の不動産取引多くは問題がないものです。でもふとした時に訪れる危機に対して、司法書士は経験と直感、そして集合知を頼り切り抜けることが求められます。いわゆるベテランの司法書士になると、一度や二度こうした危険を切り抜けた経験があるようです。
よく言われているのが「やたら急いでいる案件は疑え」「都心部の担保なし更地の取引は要注意」というもの。
司法書士ではなくとも、お金があり不動産に興味がある方はご注意くださいね。
研修で知って面白いなぁと思ったのは、詐欺やなりすましを見抜けず事件に巻き込まれてしまうのは、新人よりベテラン司法書士が多いとのこと。自信が自制を超えてしまうことがあるみたいで、悪い人たちもそれを理解して狙い撃ちで定めてくると。
こんな背景があるので不動産を購入の際、「司法書士の報酬高っ」と反射的に思わないでくださいねというお話でした。あと、高いのはたいてい司法書士報酬ではなく登録免許税です。お願いだから総額だけではなく内訳もみてやってください。
それでも、本当に司法書士報酬が高かったら当事務所にお見積り依頼を!
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